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東京地方裁判所 昭和54年(刑わ)2079号 判決

主文

被告人を懲役一年六月及び罰金三万円に処する。

未決勾留日数中一二〇日を右懲役刑に算入する。

右罰金を完納することができないときは金一〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から四年間右懲役刑の執行を猶予する。

訴訟費用は、被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、革命的労働者協会に所属する者であるが

第一  昭和五四年六月二〇日午前四時二〇分ころから同日午前四時二五分ころまでの間、東京都大田区羽田五丁目二〇番四号先から神奈川県川崎市川崎区大師河原二丁目五番一七号先に至る間の道路上において、氏名不詳者が他から窃取してきた普通乗用自動車一台(所有者吉澤博美、浜松五六つ三五―七六、時価約五五万円相当)を、それが賍物であることの情を知りながら運転して運搬し、もつて賍物の運搬をし

第二  前記第一記載の日時場所において、縦約一六・七センチメートル、横約三三・二センチメートルのアルミ板二枚に厚紙を切り抜いた品川56と59―26の文字を貼りつけ、その地色に白色塗料を、右文字に緑色塗料を、それぞれ塗つて偽造した右番号の自動車登録番号標を前面及び後面に取りつけた前記普通乗用自動車を運転して運行の用に供し、もつて偽造にかかる自動車登録番号標を使用し

たものである。

(証拠の標目)(略)

(争点に対する判断)

被告人及び弁護人は、本件逮捕は拳銃を使用した違反なものであると主張するので、以下この点につき判断を示しておくこととする。前掲各証拠によれば、河野義明警部らが被告人を逮捕するまでの経緯は、次のとおりであることが認められる。

警視庁特科車両隊第一中隊長河野義明警部(出動服、出動帽、編上靴着用)は、昭和五四年六月二〇日午前四時すぎころから、主要国首脳会議に対する過激派のゲリラ活動に備えるため、清水一夫巡査(私服着用)運転の普通乗用自動車により、羽田空港周辺の警らにあたつていたが、同日午前四時二〇分ころ、東京都大田区羽田五丁目二〇番四号先路上において、前照灯をつけたままで停止している普通乗用自動車を発見した。河野警部らは、同車がほこりまみれであつたことなどから盗難車両ではないかとの疑いを抱き、職務質問を行なうため同車に近づいたところ、エンジンをかけたままの状態で、運転席の男(被告人)が人を待つているように感じられたため、ますます不審感を強めた。河野警部は、被告人に対し運転免許証と車検証の提示を求めてこれを確認したところ、運転者と車の所有者が異なることが判明し、さらに同車と車検証のナンバーを対比するため後方にまわつたところ、それぞれのナンバーが異なること及びナンバープレートが二枚貼り合わされて偽造されていることが判明した。そこで、河野警部は、トランクに危険物を積んでいないか調べるため、被告人からトランクの鍵を受取り、鍵穴へ差し込もうとしたとたん、被告人は、突然同車を急発進させて逃走した。河野警部らは、被告人運転の車が盗難の疑いがあり、しかも偽造ナンバープレートを使用していることなどから、被告人が過激派の一員であることも予想されたが、さしあたつては道路運送車両法違反の現行犯人として被告人を逮捕すべく、これを追跡した。被告人は、信号無視などをしながら逃走を続けけ、同日午前四時二五分ころ、前同所から約二六五〇メートル離れた神奈川県川崎市川崎区大師河原二丁目五番一七号先路上において、同車を急停止させたうえ走つて逃げ出し、その後を清水巡査、河野警部の順で走つて追跡した。被告人は、同所付近の京浜急行大師線の線路上を走り、京浜急行産業道路駅構内をまわつて改札口へ出てから、さらに逃走を続けようとしたため、後方から右改札口付近へ駆けつけてきた河野警部は、これ以上の被告人の逃走を防ぎ、直ちに同人を逮捕すべく、携帯していた拳銃を取り出し、三ないし五メートルの距離で相対した被告人に対し、「手をあげろ」と叫びながら、銃口をやや上方斜前方に向けて威嚇的に構えた。被告人がこれを見て逃走を停止したので、河野警部は、前記線路付近から戻つてきた清水巡査と共に被告人を逮捕した。なお、同警部は、右逮捕当時拳銃のほか警棒等逮捕に利用できるものは所持しておらず、また、当時同駅周辺には、通行人等逮捕行為に協力を得られる人もいなかつたものである。

以上の状況及び拳銃使用の態様からすれば、河野警部が被告人逮捕の際に拳銃を使用したことは、何ら違法な行為ではなく、被告人の逃走を防止し、これを逮捕するため、合理的に必要とされる限度においてなされたものであると認められるので、前記主張は採用しない。

(法令の適用)

罰条

第一につき 刑法二五六条二項、罰金等臨時措置法三条一項一号

第二につき 道路運送車両法九八条一項、一〇六条(懲役刑選択)

併合罪の処理 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条、四七条但書(刑の重い第一の罪の刑に加重)

未決勾留日数の算入 刑法二一条

労役場留置 刑法一八条

執行猶予 刑法二五条一項

訴訟費用 刑事訴訟法一八一条一項本文

そこで、主文のとおり判決する。

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